即興劇団『名古屋プレイバックシアター』

 ■ワークショップ参加者 元小学校校長JUNさんのテラー体験

 

それは目からうろこの1日となりました。チェックインからはじまり、たくさんのウィーミングアップ、動く彫刻を経て、私は「私の物語」を語ることになりました。始めてのテラー(T)体験、私の物語をコンダクター(C)の橋本さんが少しずつ聞いてくれました。

C あなたのお話はどんなお話ですか?
T 私は、3月で31年間勤めた小学校を、定年を待たずに辞めました。
C 小学校を辞めたお話ですね
T はい、いろいろ迷ったのですが、妻も理解を示してくれて、『死んだらおしまい。同じ一回きりの人生やりたいことやったら』って言ってくれました。
・・・
C では、どなたにどの役をやってもらいましょう?

 私の家族のイメージにあう人を、私が5人のアクターから順に指名し終えると、「では、JUNさんの物語を観てみましょう」というコンダクターのひと声で、アクターたちは打ち合わせもせず、即興劇はすぐに始まるのです。

「お父さんお帰り。ごはんできているわよ」と優しい妻の姿がある。(ウチは、こんなに言ってくれないのに。こんな妻だったらいいのに、って見ているのも不思議なもの)
何か言いたげなお父さん。「お父さん、様子変よね。何かいいたいこと、あるんじゃない」「いいや別に、風呂入ってくるわ」と退職のことをなかなか言い出せないでいる私を男性が演じ、家族がそれを心配してみている。

とうとう、「あのな、仕事やめたいんや!」って切り出したお父さんに対して、「えーー!」と、娘達が反応する。 
 長女「私は反対。なんてったって人生はお金よ」
 次女「身体が大切だから・・・」
 三女「私は、どうなるの。まだ、中3よ。平凡な人生を歩みたいのに、お父さんが仕事やめたら私の人生はどうなるの」・・・と、私の言った言葉をもとにアクターが、役になりきって即 興で演じ、私の葛藤を、家族の葛藤を見せてくれる。

お母さん「お父さんが、もういちど、自分らしい生き方をしてみたい。これからの人生を考えてみる時間が欲しいと言っているのよ。そのために大学院に行くって。みんなでお父さんを応援してあげましょうよ」

優しい妻がいました。私の物語をあんな風に本当に誠実に演じてもらい、私は涙が出そうでした。もっと詳しい説明があれば、この物語も私の実際に近いものになったかもしれません。けれども、情報が少ないからこそ、アクターが自分のイメージで自由に演じることができるのかもしれません。

そこには、私から出た「私の物語」、私であって私でない普遍的な私がいたのです。自分のことを少し離れてみて観ることができました。辞めると聞いた時の、家族の本当の気持ちはどうだったのだろう、と心配なところがあったのですが、こうして演じて見せてくれて、ほっとするとともに、こんな風に思ってくれていたのならよかった。と、家族の思いに改めて心をはせ、私の決断を認めてくれ、後押ししてくれた人たちに感謝することができました。

普段は、「家族」「子供」とひとまとまりにみていたり、人格としてみていなかったりするのに、こうして一人一人を客観的に前にすると、家族の一人一人が人格をもった存在であるということも、すごく感じました。見ていて、熱いものがこみ上げ涙が出そうでした。いっしょにみていた人たちも涙が出た、と感動を共有してくれました。

私の物語であって、見ている一人一人の物語でもあるのです。自分の人生に引きつけて演じたり、観たりしているから、この場が「共感」という温かいものであふれるのです。
私を演じた男性も「自分自身を演じていました」と。橋本さん自身も「自分が大学を辞めたときのこととだぶってじーんときた」と話してくれました。これは、まさに劇によるカウンセリングなのです。話をしっかりと聞いてもらうことによって自分で答えを見いだしていく・・・。

「プレイバックシアター」の舞台は、コンダクターが設定しますが、演じるのは参加者です。教育の場面も「実はこうなんだ」って実感。もちろんどうすれば参加者がその気になってくれる場所を作ることができるかが重要なのですが、基本的には、「共感」と「相手への信頼」「気づきや育ちはその人自身の主体性」という傾聴やカウンセリングの基本姿勢の確かさを改めて感じた1日でした。

  

 ◆橋本久仁彦さんからJUNさんへのメール

 

丁寧なメールをありがとうございました。じっくり拝読しましたが、僕の思いと重なるところがたくさんあって、とてもうれしく、また改めてよい刺激をうけました。
やはり教育の世界でカウンセリングを学ばれた方だからか、基本的な人間観、哲学といったものの同調を感じます。

何より僕にとって印象深かったのはjunさんの、本当に若々しいお人柄でした。
学校で働いてきた人は多くの人が疲れを体現しているように見ていましたが、junさんはまったく青年のままでした。
そのことがとてもうれしく、またまぶしく感じました。

「共感」「無条件の信頼」「自己一致」そうだなって感じさせていただきました。
junさんのご指摘どおり、僕もプレイバックにはこの3条件がとてもいきいきと脈打っていると思います。
プレイバックしか知らない人とはこの3条件についてはなかなか話題にならないのですが、われわれ元教師とっては、懐かしくも力強い言葉ですね。
ロジャーズについては、心理学者よりも、現場で働いている教師の方が、よくその本質を体験的に理解しているように思っています。
今回はお目にかかれて本当にいい気持ちでした。

はしもとくにひこ